想い事 日々の記録

全て普通であることが、すでに異常。日常に潜む不可視のサイレンを聞いてくれ。

【再生の記録】ポンコツな私を回収してくれた、角間温泉の「偉大な湯」。

夏は日傘を、冬は雨傘を。
どうやら私は、上田駅の切符売り場に「傘」を供えなければ、
旅する許可が下りないらしい。
旅は、万全な準備で臨めれば最高だけど、私の場合、何かを置き忘れてからが本番だ。

 

【神への供物(傘)と、ビールなき野菜串】

やっと来た、角間温泉。

雪に包まれた角間温泉。ここだけ、時間の流れが違っていた。


湯田中駅から先はタクシー移動ーーのはずが、そこにはインバウンドの海外勢が大集結。タクシー待ちは、まさかの一時間。
氷点下。
特に何も考えず、ただ呆けて立っていた。
「宿に着いたら、野菜串で一杯やろう」
その一点だけを、凍える心の支えにして。
ーーこの時点で、ビールを買い忘れていることに、私はまだ気づいていない。

————-✄—————-

ようやく宿に到着し、勢いよく玄関をくぐった。
迷いなくチェックインしようとすると、スタッフさんに阻まれる。
「予約しています」
「確認の電話もしました」
かなり堂々と主張したが、……記録がない。
絶望しかけたところで判明する真実。
ここ、別の宿だった。
何故、看板を見ないのか。
何故、確信に満ちた顔で他人の家(宿)に入っていったのか。
自分が一番わからないし、正直ちょっと気持ち悪い。

————-✄—————-

気を取り直して本来の宿へ。
さっそく温泉に浸かり、ついに待望の一杯……というときになって、
買ってきた野菜串を広げると、そこには残酷な一言が添えられていた。
「※リベイクしてください」
その瞬間、脳内に稲妻が走る。
そして同時に、致命的な欠落に気づく。
……ビールが、ない。
熱いお茶を啜りながら、痛恨のミスを呪っていると、さらに異変に気づく。
……傘がない。
あそこだ。上田駅の新幹線の切符売り場。
思い出したくもない記憶が蘇る。
夏、野沢温泉に行ったとき、私は同じ場所に日傘を献上した。
二度目。
何故同じ神に、同じ供物を。
何故私は、こんなにもポンコツなのか。
自己嫌悪が、じわじわと雪のように積もっていった。


【熱を鎧に、スノームーンと踊る】

こたつに潜り込み、酒も飲めずぐったりする。
お茶を飲みながら、ビールが飲みたいと泣いていた。
その時、ふと気づいた。
……静かだ。
テレビもつけない。外の音もない。
あれほど私を悩ませていた頭鳴も耳鳴りも、いつの間にか消えていた。

 

湯から戻ると、逃げ場のような部屋が待っていた。



贅沢の本質は、「何もない」ことなのかも知れない。
周囲には民家と雪景色。自販機すら見当たらない。
しかし、小さな湯船に凝縮された湯は、まさに極上だった。

 

*撮影許可を得ています。



「偉大な湯ほど、熱い」
そんな話を思い出し、なるべく水を足さずに入ってみる。

 

と言いつつ、ドボドボ。



最初は強烈だが、次第に身体が馴染んでくる。
いくらでも入っていられるような気になった。
ーーが、湯の本気は後から来た。
身体の中のいらないものが、ごっそり溶け出した感覚。
燃えるように熱くなる。クラッと来た。ふわふわする感覚ごと
部屋に戻った瞬間、自然に意識が落ちた。
泥のように眠り、目覚めたら深夜。再び温泉へ。
あの湯がもう、忘れられない。
温泉の熱を身体に纏(まと)い、外へ出ると、月明かりに照らされた青白い雪の世界が広がっていた。

今夜はスノームーン。
思わずカメラを構える。
……大した写真は撮れなかった。

傘はない。「明日は降らないといいな」と自分に言い聞かせるもーー、
翌朝は、ちょっと吹雪いていた。

 

旅の終わりに。
忘れ物だらけで、段取りも最悪。完璧とは程遠い旅だった。
それでも、魂はちゃんとリカバリーできた。
また次回、心がポッキリ折れる前に来たい。
角間温泉は、そんな人間を、何も言わずに回収してくれる場所だった。

ーー次は、ビールと傘を忘れずに。
(たぶん、忘れるけど)

凍てつく夜、幻想は町に降りる――おたや祭。

【氷点下の「おたや」に、魂がバグる】

「夏祭り」感覚でここへ来ると、脳がバグを起こします。
長和町古町、1月14日の宵祭り。
提灯の灯りはどこまでも幻想的だが、
空気はしんしんと、剃刀のように鋭い。
道はカチカチに凍りつき、
一歩ごとに足元をすくおうとする。

ここは「情緒」を味わう前に、
まず「重力」と戦わされる場所だ。

町角に現れるのは、動かない山車。
歴史絵巻や物語を等身大の人形たちが、
静止画のように演じる、素朴で精巧な農民芸術。
その静謐な迫力と、夜空を焦がす花火の音。
高揚感と氷点下の静寂が混ざり合い、
異界に迷いこんだような錯覚に陥る。
今年はひとりで歩いてみた。
喧騒に置く孤独も、ここではちゃんとした情緒になる。


【光に消えた、小さな背中】

ふと、遠い記憶が蘇る。
かつて、このおたや祭りの人混みの中で、
幼い娘の手を離してしまったことがあった。
賑やかな露店に目を奪われた一瞬の隙だった。
真っ白な息、凍った道。
どこまでも続く見知らぬ人たちの背中。
「はぐれた」という恐怖が、冬の寒さよりも鋭く心臓を凍りつかせた。
色鮮やかな露店が連なる道を、狂ったように往復する。
「もしや、さらわれたのでは?」という最悪の疑念がせり上がり、息が詰まった。
信じてもいない神に、この時ばかりはなりふり構わず縋り付いた。
「返して、娘を返して」と、心の中で叫びながら走った。
もし、もう一度あの子を返してくれるなら。
もう二度と、よそ見なんてしない。
絶対、手を離さない。
だから、どうかーー。

やっと見つけた娘は、泣きながら私を呼んでいた。
人目を憚らず、私も泣いた。あれはもうトラウマだ。
思い返すと、いまだに震えが来る。
小さな体を抱きしめて誓った。
この温もりを、この絶望と安堵の瞬間を、一生忘れてはいけないと。
あれから、月日が流れた。

あの夜必死で探した小さな背中は、
今ではもう私の手を離れ、はるか遠くの町で自分の人生を歩いている。

【2026年、冬。時空を超えたメッセージ】

そんな感傷に浸りながら、凍える手でiPhoneを開く。
今や「光属性」へと羽化した娘から、
幸せな「ふたり時間」の写真が届いた。
「教わった料理、作った」
そんな言葉と共に送られてきた画像。
スクランブルエッグ。
トマトのカプレーゼ。
おでん。
「おいしいって言ってくれたよ」
良かったねえ。
画面をスワイプしてゆく。
おいしそうにできている。
それから、イルミの下で微笑む師匠(娘の婚約者)。
そして、……犬。
触れ合ったらしい、イッヌたち。
娘はいない。
かつてはぐれた娘を必死に探した時のように、私は娘の残影を探した。
私が見たいのは娘であって、
今日も全力でかわいい犬ではない。
何を主張しているんだ、このイッヌたち。
せめてツーショットが欲しかった。

凍てつく夜風の中、そっと画面を閉じる。
山車の人形たちは、
相変わらず沈黙を守ったまま、
私だけが、
もう探す必要のない背中を、まだ探していた。

 

本記事は、日常の出来事と記憶をもとに綴った創作風エッセイです。
事実と心象は、冬の夜のように静かに混ざり合っています。

 

「遠く、愛しい記憶」
byニアたん&pp5fx5

 

娘の婚約、または世界が少し明るくなった日。

【闇の解職】

年末、あの「つくし体型」の黒ずくめが帰還した。

開口一番、「料理のレパートリーを増やしたい」。

はい、察しました。

母の「おかんレーダー」が、かつてない強烈な反応を示した瞬間である。

 

驚くべきは、彼女が「黒マスク」を外していたことだ。

「顔面隠蔽」がアイデンティティだった彼女が、ついに世界に顔を晒した。

これは彼女史上、最大級の規制緩和である。

つまり、人類に対してオープンになった。

そう、恋は少女を変えるのだ。

いや、「恋愛」という生ぬるいフェーズはすでに通過済み。

その先の「最終ゴール」への宣戦布告である。


【最強の「おかん」スペック】

お相手の存在は予ねてより聞き及んでいた。

コミュ障で警戒心が地雷原並みに高い娘が、ついに心を開いたその男。

スペックを確認してみよう。

* 自炊系男子(包丁の誘い人)

* おかん思想(偏食の更生官)

* イッヌ(犬)好き(慈愛の精神)

* ストイック(自分にも他者にも厳しい)

出会いから3年。

この度、正式に「娘の婚約者」という名の、新たな最強パートナーが爆誕した。

 

【驚愕のビフォーアフター】

何より笑……いや、驚いたのは娘の変化だ。

まず、発光し始めた。

かつては「闇」や「終焉」を背負い、

どこか翳りを抱えて生きていた少女が、今は発光ダイオードばりに輝いている。

そして、あんなに食べなかった娘が、

食べるようになった。

彼からの「生きるために、ちゃんと食べよう」という、

これまた強力な「おかん指示」の結果、彼女は覚醒したらしい。

主食が「コンビニ飯」だったテキトー勢から、

栄養を吟味する「スーパーの民」への移籍。

栄養バランスを考え、筋肉増量計画のもと、なんと運動まで始めたという。


【のろけという名の波状攻撃】

一年前、彼氏の写真すら持っていなかった彼女が、

今やツーショットを撮りまくっている。

そして、それを母に見せつけてくる。

「見て、この造形美。ふふ」

……はいはい、ごちそうさま。

勘弁してほしい。

確かに整った顔立ちではある。

気に入った娘は、似顔絵まで描いてる(ぷるぷる)。

同じ角度の写真、何枚必要なんですか。

見飽きませんか。

さらに続く、戦利品の報告会。

「買ってくれたよ」と歴代のプレゼントたちを見せつけてくる。

物欲の薄い娘の心を掴む彼は策士だ。

ブランド品ではない。

「何か」にこだわったチョイス。

「食べさせてくれたよ」と見せつけられるごちそうの数々。

……ちゃんと、大切にされている。

そこには、見た目はまだ少年のようだが、羽化を待つ蝶のように、

普通に恋する乙女になった娘の姿があった。


【海と星、そして母の師匠へ】

思い返せば、お腹の子が女の子だと知ったあの日から、

母はこの瞬間をずっと妄想……いや、想い馳せてきた気がする。

数多の地獄、数多の地雷、数多の爆発を乗り越えて、

ようやくこの日が来た。

壊れなくてよかった。

健康体のまま、未来へ繋げられた。

名前に「海」を宿す娘と、「星」を持つ彼。

海に星が反射して、新しい世界が生まれる。

これはもう、宇宙の法則レベルの共鳴である。

「今度、母に会いに来るって」

娘が言った。

「待ってるよ」と答えながら、母は密かに安堵している。

では、師匠(彼をこれからこう呼ばせてもらう)

もう、君に任せて良いかな?

今はまだ遠距離で響き合っている「海」と「星」。

やがて彼らは、どこかの大地に根を張り、最強の家庭を築いていくのだろう。

おめでとう。

次は、ふたりで私をマリオカートで粉砕しに来なさい。

受けて立つ。

 

*本記事は、実際の日常を基にした創作風エッセイです。

今回は、我が家に新たな光が舞い降りた、記念すべき記録となります。

 

「見ているのは、同じ明日」
byニアたん+バグりん&pp5fx5



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対王者のバナナ--希望は皮一枚で滑り落ちる。

【年末年始・マリカ斬記】

年末年始。

黒い死神が今年も我が家に降臨した。

つくしのように細い体。

全身を覆う漆黒の装備。

キャリーバッグまで黒。

--だが、

いつも外さなかった黒マスクだけは、

何故か今日はなかった。

あれほど素顔を隠していたのに。

“何かに覚醒した” 我が娘である。

 

テレビすら映らない我が家で、
私たち親子がやることと言えば、ひとつしかない。
そう、地獄のマリオカートバトルだ。


【開戦ーー 無慈悲なる黒い影】

もちろん、生粋のゲーマーである娘に、この鈍い母が勝てるわけがない。

だが、協力プレイではないので、

各々、自分の「走り」を楽しむ(はずだった)。
娘が選んだキャラは、その名の通り、

闇の使者「くろヘイホー」。
そして私は、愛らしい「キノピオ」。
勝敗は火を見るよりも明らかだ。

くろヘイホーは不動の一位。まさに絶対王者

一方のキノピオは、カーブすらまともに曲がれず、壁にぶつかり、逆走し、

どん底を這いずり回っていた。
だが、人類は進化する生き物だ。

前へ進むだけで精一杯だったキノピオも、次第にコツをつかみ始めた。

アイテムの活かし方を覚え、

ライバルを攻撃しながら爆走を開始した頃から、

対戦は俄然、面白くなった……と、その時は思ったのだ。


【戦慄 ーー伝説の「バック・バナナ」】

娘はレースを終えるたび、必ずハイライトシーンを再生する。

自分のキャラがどんな神業を決めたのか、

どんな惨劇に巻きこまれたのかを確認するため……いや、

奴の目的はもっと冷酷非道だった。
私はそこで、背筋が凍るような光景を目の当たりにする。


一位を独走するくろヘイホーが、最後の直線で、何のためらいもなく、

バナナを後ろへ放り投げていた。

表情ひとつ変えず、無慈悲に、

そして毎回、

まるで神聖な儀式のように。

(*ФωФ)ノ🍌


そこには、二位以下の者たちに残された、「もしかしたら追いつけるかも」

という淡い、淡すぎる希望を、完全に粉砕する、

極めて戦略的な意図がこめられていた。
ゴール直前、懸命に食らいつくライバルたちの鼻先に、

皮一枚の絶望が落とされる。
→ 物理的効果: スピンによる完全なる停止。非情。
→精神的効果: 「あと一歩」というところで、奈落の底へと叩き落とされる屈辱。

これでもかというほどの精神攻撃。

くろヘイホーは、単に勝つだけではない。

追撃者の「次こそは勝てる!」という、未来への希望さえも

バナナの皮と一緒に滑らせ、粉砕していたのだ。

恐るべし、我が娘……。


【「貴様らは見えている」というマウント】
この「バック・バナナ」の技術的マウントたるや、筆舌に尽くしがたい。
アイテムを後方に正確にライン上に置く。

これはもう「背後に迫る敵の軌道が完全に見えている」という、

絶対的な支配者の証だ。


「貴様らがどこを通って私を抜こうとしているか、


バックミラーすら見ずに理解しているんだよ!」


そのバナナには、こんな無言のメッセージがこめられているに違いない。

想像すると腹が立つのだが、正体不明の笑いが止まらなくなる。

私は屈辱と笑いに翻弄され、理性と共に体力まで失っていった。
くろヘイホーにとって、

ゴールラインを切ることなど、もはや作業に過ぎない。

奴の真のフィナーレは、

背後で聞こえる「スピンの音」と、

ライバルが放つ「絶望の叫び」なのだ。
ハイライトシーンで、

くろヘイホーの攻撃を食らって痛々しく舞い上がる私のキノピオ

そして、バック・バナナをキメた瞬間。

ゴールを切ったヘイホーがバイクの上で小躍りする姿。
これらを、娘は笑いながら再生する。

時にスローモーションにして、

時に何度も何度も巻き戻して。

(Φ∇Φ)「ヒャッハーーーッ!!!」

その声は、地獄の女王のようだった。

 

【黒い矜持と、現代社会を生き抜く術】
黒という色は、すべての光(希望)を吸収する色だ。

「静寂と終焉」を運ぶくろヘイホーは、

まさに娘のアイデンティティそのもの。

そこには、「私の前を走るな」という、

絶対王者の揺るぎない「矜持」が渦巻いていた。
およそ一週間の間、

ひたすらヘイホーの黒い背中を追い続けた私は、あの残酷な一振りに、

現代社会を生き抜くための「究極の回答」を見た気がした。
→ 冷徹なる優先順位: 背後の騒音(タスクの山、他者の思惑)を一切振り返らず、

冷酷に、かつ確実に自らの勝利を確定させること。
→無慈悲な幕引き: バナナの皮一枚でその状況を強制終了させるような、

圧倒的な断捨離の精神。未練など不要。
結局、あの冷酷な背中に追いつくことはできなかったが、何故か清々しい達成感だけが残っていた。


娘よ、ありがとう。

これからもその背中を追わせて欲しい。いつか追いつける気がするんだ。

だって、キノピオ二位まで登り詰めたの、きみも見たよね。

 

*本記事は実際の日常を基にした創作風エッセイですが、

今回はほぼ脚色がありません。

どうしても一勝を得たい母は、思いついてこう提案しました。

「よし、リバースしよう」

リバーシ、な?」

娘が冷笑と共に眸を濁らせたあの瞬間を忘れることができません。

「皮葬--見て、キノコが絶望してる。いい顔。」
ニアたん+リリィ&pp5fx5

 

今年、人類として生き延びるために刻んだ三通りの『一文字』

ニュースで「今年の漢字」が発表された。

ふーん。なるほど。

で、私は? と、考えてみた。

世間が決めた一文字より、

自分が一年かけて踏み抜いた地雷の数の方が気になる。

というわけで、今年の思考の軌跡を、

遺書ではなく記録として残しておく。

再発防止用のメモとして。

 

【自分の漢字・真面目ver】

『境』

今年ほど「境界」という概念に向き合った年はない。

私は常に線を引いていたい。

それは、生存本能に近い考え。

絶対に越えられたくないラインは、

誰にでもあるはず。

ところが今年、

人類語を解さない地球外生命体が頻発した。

こちらがどれだけ丁寧にラインを引いても、彼らはそれを「装飾」だと思っている節がある。

線は、引いただけでは伝わらない。

人類である限り、明確な言語化が必要なのだ。

「この先、地雷原」と。

だが、その看板を読まず、

読めず、読んだ上で踏みこんでくる宇宙人たちがいた。

結果どうなるか。

当然、爆発する。主に私のメンタルが。

おかげ様で私は学んだ。

境界とは、優しさではない。

安全装置だということを。

守るための線。壊さないための線。

そして、引くこと自体が選択であるという事実。

今年、私はひとつ大人の階段を登った。

来年は、さらにラインを明確にする予定だ。

看板も強化版にする。

「この先、地雷原・

一歩ごとに過去の恥部が爆発します」

【自分の漢字・おふざけver】

『無』

『境』問題を通過した結果、

最終的に辿り着いた悟りがこれである。

・無理しない。
・無関係な責任を背負わない。
・無言=敗北ではない。
・無駄に戦わない。期待しない。
・無理ゲーからの脱退。

「無」は戦略的撤退の完成形だ。

何もしない勇気。

やらない判断。

関わらない選択。

それは敗北ではなく、HPを減らさない技である。

今年の漢字(社会編)】

『熊』

正直、ニュースの中の存在だと思っていた。

だが、住んでいる地域に熊対策マニュアルが配布された瞬間、理解した。

ああ、

これはもうファンタジーじゃない。

私の中の熊は、

常にだらけながらホットケーキを食べている、癒しの象徴だった。

しかし現実の熊は、ちゃんと現実だった。

共存は、願望ではなく課題だ。

来年は、人類も熊も、

もう少し安全に生きられる世界に近づくといいね。

早朝勤務。

月明かりの朝は、少しだけ怖い。

でも夜明けは確実に早くなっている。

【総括】

境を引き、無を知り、

とりあえず今年はここまで来た。

来年のことは、また来年考える。

でも、今年退いた分だけ、

前には進みたい。

次は午年。

馬は、止まるより進むほうが得意だ。

今の自分が、納得できる一歩を選ぶ

ーー転ばなければのお話。

【ご挨拶】

来年も、地雷を避けつつ、 馬らしく軽やかに進んでいければと思います。 はてなブログに越してきたばかりの私ですが、 来年もよろしくお願いします。

 

 

「ここは、壊さないでいい場所」
byバグりん+リリィ&pp5fx5

 

 

選ばれなかった家のクリスマス。

【飾られなかった贈り物】

 シュトーレンの最後の切れ端を食べ終えた。

 カレンダーを見なくてもわかる。

 Lの表情が、どこか「落ち着きすぎている」からだ。

 

「今年のはチャイ風の変わり種だったね。

 カルダモンとクローブが、これでもかってくらい効いてた」

 少女Vは、湯気の立つ紅茶を両手で包みながら呟いた。

 部屋中がエキゾチックな香りで満ちている。

 彼の視線は、まっすぐクリスマスツリーへ向いていた。

 瞳孔が僅かに開いているが、感情は読み取れない。

 

「やっと来たね、クリスマス」

 Vの浮き立つような声は、冷たい水のような静寂に呑まれた。

 Lはテーブルに品物を並べ始める。

 “宝物ボックス”から出された、Vからの歴代プレゼントたちだ。

 ひとつひとつを宝石でも扱うように置いていく。

 

「……見ていいよ」

 毎年恒例の、謎の儀式だった。

 もはやVは、反応の正解がわからなくなっている。

「触れ方を間違えるな」

 という無言の圧を感じて、背中には薄く冷たい汗が浮いていた。

 

「一番のお気に入りは、去年のこれ」

 Lはスノードームを持ち上げ、無表情のまま振った。

 雪が舞い、モミの木と赤子を抱くマリア様、白い子羊が淡く揺れている。

 その瞬間、Vの胸に去年の記憶が蘇る。

 

 あのクリスマス。

 気に入ってくれると信じてこれを差し出した時、Lの表情は一瞬で凍りついた。

「……何をしているの?」

「え?」

 ドームをひったくるように奪うと、Lは迷いなく冷蔵庫にしまった。

「知らないの? 雪は溶けるんだ」

「……知ってるよ」

「じゃあ何故、常温で保存した?」

「へ……?」

「溶けたらどうするの。どう責任とるの」

 声が淡々としていて、逆に恐ろしい。

 Vは説明の言葉をすべて奪われて、ただ固まった。 

 Lはスマホを猛スクロールしながら続ける。

「替え雪を発注しないと。ほら、いつかは替えなきゃいけないだろ」

 真顔だった。

 

 あれからLは、ドームの雪が溶けないことを学んだ。

 だが“壊してはいけない”という恐怖だけは消えていない。

 プレゼントは全部宝物ボックスへ。実用性はゼロだ。

 

 贈り物は「使われる」ことで壊れる。

 だから彼は、永遠にそれを封印する。

 

(今年のプレゼント……間違えられない)

 Vは考え抜き、壊れないもの――

 むしろ使わないと意味がないものを選んだ。

 

 そうして選んだのが――『伝説のクラフトコーラ』。

 

 24時間以内に飲み切れば、動物の言葉が少し理解できるようになる。

 特にリス語。

 もちろんただのコーラだ。

「揮発性の魔法成分が空気に触れると消えてしまうの。時間厳守でね」

 一言添えれば、彼は信じるだろう。

(夢を与えるだけだ。騙してなどいない。)

 そう自分に言い聞かせていた。

 

【サンタはいるって】

「今年もわたしがサンタ役をしてあげるね。サンタなんか、いないんだから」

 言った瞬間、Lはゆるりと首を傾けた。

「サンタクロース村は実在して、国連が承認してる。

 きみ、それすら知らないの?」

 感情の見えない目。

 言い方が、なんだか異様に静かで、ゾッとした。

「トナカイはクリスマスの夜だけ空を飛ぶ。普段は隠してる能力だ」

「さ、さすがに飛べないよ……?」

「鳥は飛ぶのに? 矛盾してるね」

 Vの呼吸が乱れる。

 前提からして、もうおかしい。

 でもLは真剣だった。

 

「ぼくは聞いた。空を駆ける鈴の音。シャンシャンシャンって」

「それは、たぶん誰かが……」

「夜空を駆けてく音だった」

 声が低い。笑っているような、怒っているような。

「サンタはいる。でも、うちには来ない。選ばれなかったから」

「選ばれ……?」

「あの人たちは子供を選別してる。冷たい基準でね。

 毎年うちの前を素通りするんだ。ここでいい子が待ってるのに」

(……怖い子が待っています)

 それはツッコミではなく、事実確認に近かった。

 Lはスノードームを振りはじめた。

 ゆっくり、ゆっくり。

 雪が吹雪のように渦巻いている。

 Vの胸の奥では、恐怖が静かに膨らんでいった。

「L、落ち着い――」

「ぼくは知っている。サンタは、軽い幸福しか配らない。

 すぐ消費される幸福。包装紙ごと捨てられる幸福。

 ぼくは、捨てられないものしか受け取らない。

 だから、来なくても、いい」

 廊下から保護者Rの声がかかった。

「早く寝ないとサンタさん来ないわよ〜」

「来ないから!」

 テーブルの上のドームが震えた。雪嵐がさらに強まる。

 もみの木が折れそうだった。

 神も人も羊も、みんな飛ぶ。

 

【プレゼントの意味が変質している】

「プレゼントは……使ってほしいの」

「ダメ。壊れるから。死んだら一緒に火葬してくれればいい」

 声に迷いがない。それが、余計に恐ろしい。

(プレゼント……って何? 所有……支配……?

 わたしの“温度”だけを永遠に閉じこめたいってコト?)

 Vの手が震えた。

 紅茶の表面が微かに波打った。

 狂気と恐怖が並んで座る、イブの夜。

 Lは再びスノードームを振りはじめた。

 狂おしいほど慎重に、丁寧に、過保護に。

「♪ 飛べないきみは ここにいる。翼なんかいらないよ」

 囁くように歌いはじめるL。

 Vは黙って紅茶を飲む。蜂蜜の甘さが喉が張りつく。

 でも視線をそらせない。そらしたら何が起きるかわからない。

「赤いリボンで 縛っておこうね。

 どこかへ羽ばたいて行かないように 時計の針も 折っておこう♫」

 

 ――サンタは今年も素通りする。

 Lの世界を救う気はないのだ。

 ただ、月が眩しいだけの夜。

 その光が、Lの横顔の不気味な静けさを照らしていた。

 

【あの影は】

 その日の夜。

 Vは、鈴の音で目を覚ました。

 

 シャン。

 シャンシャン。

 シャンシャンシャン。

 ――耳の奥で、ではない。外だ。しかも、近い。

 

「……まさか」

 心臓が、嫌な跳ね方をする。

 Vはそっと窓を開けた。

 

 その瞬間、月の前を、影が横切った。

 ほんの一瞬だった。

 だが、輪郭ははっきりしていた。

 節のある脚。枝分かれした角。

 そして、背後に揺れる、もうひとつの影。

 あれはどう見ても――

 

「L! 起きて! ねえ、起きてってば!!」

 もぞもぞと動く毛布の下から、

「……ダメ……今……」

 半分夢の国から帰還しきれていない声で、Lは律儀に返事をする。

「今、……ごちそう、食べてる……」

「そんなのいいから! 空! 空見て!!

 トナカイさんが!! トナカイさんが飛んでた!!」

「……ふーん……」

 Lは起きない。

 彼は天然であるがゆえに、「ありえない」を日常に収納できてしまう。

 そのため、「ありえない現象」が現実に現れても、特別なイベントとして処理しない。

 むしろ彼は、今まさに夢の中でローストチキンに勝ちかけている自分を優先した

「やば……この肉汁……V、一緒に食べよ……」

 

 シャンシャンシャン。

 鈴の音だけが、窓の外でいつまでも、笑うように鳴っていた。

 

【クルミの真実】

 翌朝。

 Lは全力で、『伝説のクラフトコーラ』と向き合っていた。

 両手で瓶を持ち、研究者のようなまなざしで、一口一口、確かめるように。

 Vは、昨夜の“禁忌”に、もう一度、恐る恐る触れてみた。

 

「……見間違いかもしれないけど」

 声が、少し掠れる。

「わたし……空を飛ぶトナカイさんを……見た、かも」

 Lは、まったく動じなかった。

「だから、いるって言ったろ?」

 あまりにも平坦な声。

 この状況下でも、彼は通常運転のまま世界の方を歪ませる。

「落ち着けよ、V。大した問題じゃない」

 その台詞が、Vの理性を一段階下へ引きずり落とす。

 Lは視線をそらし、窓枠にいるリスを見ていた。

 ――リスは、異様なまでの視線の圧を感じた。

 クルミを食べるのをやめると、ゆっくりと顔を上げ、Lを見返す。

「うん、すごいねV」

 Lは感心したように言う。

「このコーラ、伝説は本物みたい」

 Vの思考は、追いつかない。

「……え?」

「ほら」

 Lはリスを指差した。

「いつもより、リスの言葉がはっきりわかる」

 ――いつもより? はっきり?

「……あの子、なんて?」

 Lはリスを見つめたまま答えた。

「『味が違う』って。『これ、いつものクルミじゃないね』ってさ」

 Vの顔から、一気に血の気が引いた。

 確かに。今日リスにあげたクルミは、クリスマスの特別仕様。

 ちょっと高級な、“選ばれしクルミ”だった。

 

 何故、わかる。

 いや、何故、翻訳できる。

 

 鈴の音が、耳の奥で、もう一度鳴った気がした。

 シャン、シャン。

 Vは、ゆっくりとLを見る。

 

 ――本当に、この人は。

 

 サンタを信じているのか。

 それとも、最初から“向こう側”の住人なのか。

 リスが、またクルミをかじりはじめた。

 その音が、やけに大きく、骨を削る音のように響いていた。

 

【それは奇跡の朝だった】

 Lがふと、リスから視線を外した。

 庭でも、クルミでも、世界の仕組みでもない。

 彼の視線は、まっすぐにVへ戻ってくる。

「……」

 ほんの一拍、間があった。

 ためらうような、それでいて決めていたような沈黙。

「ぼくからの、プレゼント……」

 空気が、変わった。

 Lの手が動く。世界をどうこうする手ではない。

 壊さないように、落とさないように、いつも少しだけ注意を払っている手。

 ポケットから、小さな包みを取りだす。

 赤い紙でも、派手なリボンもない。

 ただ、丁寧に折られた白い紙だった。

「……ほら」

 それを、Vの手のひらに乗せた。

 軽い。驚くほど、軽い。

「なに……?」

 紙を開いた瞬間、Vの呼吸が止まった。

 そこにいたのは、赤い帽子をかぶった、小さな陶器のリスだった。

 ――去年の記憶が一気に逆流する。

 

 アドベントカレンダーの小さな窓。

 あの日の喜びが、手のひらの感触ごと、よみがえった。

 

「……うそ」

 声にならない。

 それは、ずっと飾っていた。

 日の当たる棚の、いちばんのお気に入りの場所に。

 そして、ある日、消えてしまった。

 なくなったあとも、忘れられなかった。

 陽だまりの空席を見るたびに、痛かった。

「……もう、戻ってこないんだ」

 

 Vは、震える指でサントンを包み直そうとして、ふと、その耳元に気づいた。

 ごく薄い、歯形。

 窓辺を見る。リスが、こちらを見ていた。

「……どうして?」

 Vは、ようやく言葉を探し当てた。

「なくしたのに。どこに……」

 Lは、窓を見たまま答えた。

「犯人は、あの子」

 リスが、キュイと鳴いた。

「100個でいいって、言ってた」

「交渉したの?」

「うん。リスの判断基準が、ドングリなんて」

 Lがおもしろそうに、ふにゃっと笑った。

「……かわいすぎるだろ」

「ほんと、かわいい……」

 Vは、サントンを見下ろす。

 赤い帽子の色が、ほんの少しだけ、褪せている。

 

 一年前。

 

「なくなっちゃった」

 そう伝えたら、彼は短く答えるだけだった。

「よく探して」

「見つからなかった」

「……そうか」

 

 彼は、聞いていなかったわけじゃない。無関心でも、忘れていたわけでもない。

 ただ、言わなかっただけだ。

 知らない場所で、一年かけて探してくれた。

 それは、優しさよりも、満たされない飢えに近い衝動だった。

 欠けたままのパズルを、彼は決して許さない。

 歪で、どうしようもなく真摯な情熱が、失われた一片を求めて彼を動かした。


 そして――

 それは、奇跡の再会に繋がったのだ。

 

 Vの視界が、ゆっくりと滲んでいった。

 涙は、音を立てなかった。

 ぽろりと落ちて、リスの赤い帽子を、静かに濡らした。

 Lは、何も言わない。ちょっとだけ笑って、ただ、そこにいる。

 リスは満足そうに、クルミをかじり続けていた。

 

 世界は、まだ少し、不思議なままだった。

 それでも、このクリスマスは、確かに、優しかった。

 夜の冷気は、もう怖くない。

 Vの前に立つ背中が、静かにそれを遮っていたのだと、気づいたから。

 

                              Fin

 

楽しい夜をお過ごしください。byバグりん+リリィ&pp5fx5

 

神使の視線「四柱神社で詰められた話」

「豆50円、圧は無制限」

 

【久しぶりの四柱神社

寒くなった松本市内。

年末も近づいて、インバウンドの旅行者も多く、町はほどよく賑やかだ。

鳩も多い。

いや、鳩が多すぎる。


四柱神社の入口で、豆が売られている。

ーー50円。

鳩と遊ぶ権利というより、鳩に見定められる権利が付いてくる。


買った瞬間、視線を感じた。

……気のせいではなかった。 

鳥居をくぐると、彼らはもう待っていた。


「俺たちは知ってるよ」

「さっき買ったよね」

「全部見てた」

「隠してもムダ」

「豆を、早よ」


圧が普通じゃない。

すごいよ、この子たち。

人間の動線を完全に把握している。


空から降ってくる鳩。

にじり寄る灰色。

死角という概念が存在しない。

気づけば、鳩に包囲されている。

首は揺れているのに、思考は一切揺れていない。

目が、合理そのもの。

距離感ゼロ。境界が消えていた。

 

この子たち、

かわいい顔で完全に詰めてくる。

 

⁽⁽⌒(⊙ө⊙)⌒ ⁾⁾

 ………ฅ(ΦꈊΦ´ฅ) ………!!!

 

【豆投下】

豆を蒔いた瞬間、地面が鳩になった。

始まってしまった、争奪戦。

膨らんで威嚇する鳩。

体当たりする鳩。

「人類よ、直接よこせ」と直豆交渉を持ちかけてくる鳩。

 

鳩たちに会話はない。

あるのは、意志だけ。

 

そして――豆が尽きた瞬間。彼らは、一斉に背を向けた。

「はい、解散です」

 

豆のない私は、空気。

切り替えが早すぎて、逆に清々しい。

情がないのではなく、無駄がない。


――これが神使です。合理的で、冷酷で、正直な。

 

【何故、ここに集うのか】

理由は簡単だ。

・ご飯がある

・安全

・水もある

・人間が優しい

・そして鳩は覚える

一度「ここは勝ち確」と判断すると、二度と手放さない。

さらに神社仏閣では、鳩は古くから「神様のお使い(神使)」として扱われてきた。

だから、
・追い払われない。

・守られる。

・結果、増える。

理にかなっている。怖いくらいに。

ふと思い出した。若い頃に行った、鎌倉の鶴岡八幡宮

 

白い鳩がいた。

豆はなかったのに、寄ってきた。

やけに懐こい子だった。

⁽⁽ଘ(◕𓇸◕)ଓ⁾⁾  

ふわり。ふわり。

軽やかに舞い上がっては、腕や頭に乗ろうとした。

友人と一緒に、たくさん遊んだ。

白い鳩を頭に乗せて、幸せそうに笑っているあの日の写真は、今も大事に残してある。

あの子は確かに、神々しかった。

 

【灰色の癒し手(自覚ゼロ)】

前回来た時は、夏だった。

理由は忘れたが、心がしんどかった。

あの時も、私は鳩を見ていた。


豆を持って逃げる人。

全力ではしゃぐ子供。

真顔で撮影する大人。

誰もが鳩に翻弄されながら、とても楽しそうだった。

 

結局、君たちは、何もしていないのに、人を癒している。

 

だから、愛される。

だから、守られる。

だから、増える。

 

彼らはただ「いる」のではなく、配置されているのだ。この神域に。

 

【年末の願い】

願串には、今いちばんの願いを書いた。今回は家族ではなく、自分のこと。

鳩に囲まれて、人間らしい弱さを思い出した。

来年は、もう少し自分を雑に扱わないで生きてみたい。

 

ありがとう、鳩たち。

今年最後の観光は、圧と癒しが同時に来る、最高の締めでした。

 

本記事は、実際の日常を基にした創作風エッセイです。

鳩は神使であり、合理の塊であり、

私の被害妄想は年末仕様となっております。

 

 

              

救済の言葉「おいで!」
byバグりん&pp5fx5